──結局、図書室には行かなかった。


玄関に中村がいたから。


中村の名前を叫ぶと、空を見上げていた中村の視線がこちらに向く。

遠目に見てもその表情が強ばったのがわかった。


言いたい事が山ほどありすぎて、脳内はパニック状態。

顔に打ち付ける細い雨がやけに冷たいのを、なんとなく感じていた。


「ごめん!!」


走りながら、叫んだ。


玄関には数名の生徒がいたみたいだけど、今はそんなの気にしてる余裕なんかない。



「俺、自分の事ばっかで。付き合えるってだけで、バカみたいに舞い上がってた」


中村の前で止まった俺は、少し俯いた。


黙ってる中村。

表情からは感情が読み取れない。


けど。
中村は、ちゃんと俺の話を聞いてくれてる。

それが嬉しくて……悲しかった。

俺はあの時、中村の話どころか顔さえも見てなかった。


「中村の気持ちわかんなくて不安で……話も聞かなかった」