「中村本人に聞いたわけじゃねぇけど」

「……うん」

「一緒に帰ってた男はN高の制服着てたらしい。中村の兄貴も、N高だ」


N高校は、県内でもトップクラスの高校。


何も言えない俺をわかってか、大輔はブレザーに腕を通しながら言葉を続ける。


「中村、放課後はよく図書室に行くらしい」

「…………」

「今も、まだいるかもしんねぇ」

「…………」

「翔真」


湿気に包まれたどこか息苦しい空気に、クッキリとした大輔の声が響く。


雨音が、少しだけ強くなった気がした。


「さっきの『一緒にいたのは兄貴』ってのは所詮、俺の予想だ。どれが事実かなんて、俺らが勝手に判断していい事じゃない。そうだろ?」


……俺は。

自分で判断して、勝手に落ち込んで。

中村の話、ちゃんと聞かなかった。

中村は何か言おうとしてたのに。
人前で喋んのが苦手な中村が、何度も俺の名前呼んで。
必死で何か伝えようとしてくれてたのに。

俺は自分が傷つくのが怖くて、逃げた。

中村の考えがわからないとか悩みながら、わかろうとしてなかった。


「……大輔」

「ん?」

「……いつもハゲって言ってごめん」

「……あぁ」

「あと、先帰っててくんね」

「おう」


素直に言えなかったけど、俺の感謝の気持ち、大輔はわかってくれたみたいだった。

やけにかっこいいスマイルを浮かべた大輔に見送られ、俺は体育館を飛び出した。