「別に惚れたとかじゃなくて……なんか、よくわかんね」

「んだよハッキリしろよ。男のくせにー」

「ま!サッカー馬鹿の翔真には、恋愛なんてまだ早いか!」


ガハハ、と笑うダチに俺は「ガキ扱いすんな!」と一喝して、むさ苦しい男の輪から視線を移した。


……また、本読んでる。


教室の、窓際の最後尾に座って静かに読書してるのは──中村美雨。


柔らかな春の日差しに包まれ、白い肌には睫毛の影が落ちている。

古びた教室と絶妙にマッチした、綺麗な光景。

もしこれを写真に収めて額縁に飾れば、展覧会などで最優秀賞をとってしまうんじゃないか、なんて思ってしまうほどだ。


……なんなんだろ、この気持ち。


伏し目がちの目がまばたきをする度に心臓が跳ねたり。

なんの本を読んでるのかと、本の薄茶色のカバーの中がやけに気になったり。


ストーカーか?俺は。


わかるのは、今まで全然気にもしていなかった存在が、そうじゃなくなった事。

……あの日から。
心の中で着実に、何かが形を変えていってる。

それがなんだかよくわかんなくて、ムカムカする。


このムカムカが、世間一般でいう『恋心』ってやつなんだろうか……。


「……ふぅん、中村さんねぇ〜」