「翔真くん!」


そんな声が聞こえたと同時に腕を掴まれた。


そこは登校してきた生徒が何人も行き来している、教室に入る直前の廊下。


振り返らなくても誰かわかる。

……振り返りたくない。

きっと俺、さっきより情けない顔してる。


だけど掴まれた手を振り払う力なんかなくて、俺はただ立ち尽くしてた。

なのに。


「翔真くん」


背中越しに中村の悲しそうな声が届いた。


なんで中村がそんな声出してんだよ。
泣きたいのは、こっちだっつーの。

そんな事考えながらも……俺は振り返ってしまった。

結局、俺は期待してる。
何か理由があったんじゃないかって。

だから振り返ったんだと思う。


振り返るとやっぱり中村は悲しそうな顔してて。

嫌な予感がしながら、期待は膨れ上がるばかりだった。


しかしそんな期待はすぐに崩れさる。


「えー!あの2人付き合ってんの?」

「あっ、あたしこないだ一緒に帰ってんの見たよ。相合傘で」

「マジィ?なんか意外〜」


ボソボソと聞こえた好奇に溢れた会話。

それは明らかに俺達に向けられたもので。