休みの間そんな事ばっか考えてたからか、朝靴箱で中村に呼び掛けられた時、俺はどんな顔をしていいかわからなかった。


恐る恐る後ろを振り返ると、いつもの無表情な中村が俺を見上げていて。
いや、無表情の中に僅かな焦りが混ざっているようにも見えた。


俺は声も出せないまま、中村を見つめる。


中村の黒目がちのビー玉に映った自分は不安と怒りと哀しみが混じった、なんとも情けない表情を浮かべていた。


「……あの、」

「あ、中村じゃん!」


何かを言い掛けた中村を遮ったのは、あの日『中村が男と帰っていた』と証言した友人。

実は靴箱の壁に隠れていたが、俺のすぐ隣にはこの友人もいた。


中村は友人の存在に気付いていなかったのか、少し目を見開いて固まってる。

そんな反応なんてお構い無しに、友人は当然の質問を投げ掛けた。


「お前こないだの男、誰なん!?」

「……え?」

「一緒に帰ってただろ!?金曜!」


別に友人は怒っているわけではないが、興奮気味に話す声はかなりデカイ。


『声でかすぎだぞ』と注意しようかと口を開きかけた俺は、視界の端に映る中村の変化に気付き、茫然とした。