「それが俺、中村ん家わかんねんだよな。情けないことに」

『……そっか。なぁ、まさかとは思うけど、試合には来たりしないよな?』


─応援に行ってもいいかな?─


脳内に響いた中村の声に、胸が突き刺されたようにズキズキと痛みだした。

同時に思い浮かぶのは、凛と光る黒目がちの瞳。


……中村は、あの瞳の奥で何を想ってた?


「……来ない来ない。だってこの雨だぜ?言われなくても中止ってわかるっしょ」


わからない。

中村が何を考えてんのか。
何を想ってんのか。


信じたいのに、信じれない。


もしかしたら何か事情があったのかもしれない。


だけど何もわからないから、何を信じていいのかわからない。

ずっとモヤモヤしたまま。


俺は他人より、クラスメートの誰より、中村の事をわかってるって自惚れてた。

だけど実際は、中村の住んでる場所さえ知らなくて。

情けない。

何も知らない自分に腹が立った。
何も言わない中村に腹が立った。


恋愛ってこんなに辛いもんなのか。
両想いってこんなに上手くいかないもんなのか。


中村に会うのが怖い。
どうなるかわからないから怖い。
中村が何考えてんのかわからないから怖い。
中村に何言われんのかわからないから怖い。