「……そっか」


ポツリと、静かな呟きが耳に届いた。


どんなに小さな声でも中村の声だけはなぜか、雨音に掻き消される事無く鮮明に浮かび上がる。


傘を持つ手はジンワリと痺れていた。


「……応援、行ってもいいかな?」

「……え……?」


顔をあげると、目線だけを下に向けていたらしい中村と目が合った。


情けないくらい、俺の声はかすれていた。


「翔真くんの試合、見に行ってもいい?」

「え……来てくれんの?」

「うん。サッカーのルールとか、あんまりわかんないけど……」


きっと中村なりに、俺の不安を取り除こうとしてくれてるんだ。

そんな気持ちが嬉しくて、少し切なくなった。


気ぃ遣わせちゃったな、俺……。


「ありがと。俺、めっちゃ頑張る!」


「そろそろ帰ろっか」と微笑みかけ、遠慮がちに俺の傘へ入ってきた中村と並んで歩き出した。

雨の匂いに混じってフンワリと優しくて甘い香りがした。