「ごめん!」


玄関の前に立っている人物に声をかけ、傍まで駆け寄る。


体育館から玄関までの距離はそんなに長くないにも関わらず、緊張のせいかすっかり息があがってしまっている俺に、目の前の人物は柔らかに微笑んだ。

だがすぐにその表情を曇らせる。


「……ごめん。傘、忘れた」


突然の告白。

一瞬の沈黙が空き……俺は声をあげて笑った。

辺りに、雨音と俺の笑い声だけが響く。

突然笑いだした俺を、目の前の人物は不思議そうな面持ちで見上げた。


「あははっ!中村って、いつも傘忘れてるよな。昨日も、あん時も忘れてたし」

「……うん」

「まぁ、これからは俺の傘に入れば大丈夫だけどさ」


ケラケラ笑いながら傘を半分ずらし、バツが悪そうに表情を歪める人物──中村を招き入れる。

だが中村はすぐには動かなかった。

むしろ固まってしまった。
ポカンと俺を見上げたまま、まばたきもしない。


その反応を見て、自分がすんげぇクサイ事言ってるって気付いた。


──やべ。引かれたかも!


不安5、恥ずかしさ5。
このままじゃマズイと思った俺は誤魔化すように口を開く。