「……私、あの時、すごく態度悪かったでしょう?」


中村は言った。

少し掠れた小さな声は、湿気の籠もった空間の中に鮮明に響いた。


「怒ってるみたいって、よく言われるから」


……もしかして。
ずっと、気に掛けてくてれた……?

そんな自意識過剰な思いと一緒に、身体中が自分のものじゃないみたいにザワザワと騒ぎ出した。


無意識に中村に触れようと伸ばしかけた手を、ギュッと握り締める。


「……俺には、怒ってるみたいには、見えなかったけど」


雨は嫌いだ。

けど、今だけは雨に心から感謝した。

雨が降ってなかったら今頃、心臓の音が中村に聞こえてしまってたかもしれない。


「そっか。……こないだ、教室で私の話してるの聞こえたから、悪い事したなってずっと気がかりだったんだ」


そんな事、考えてたんだ。


凛とした瞳、無表情。
そんな仮面に隠れていた素顔は、優くて、少しだけ不器用な女の子。


今こうして素直に胸の内を話してくれる中村を、心の底から、愛しいと感じた。