ルゼルの寝顔を見ながらレリアはフゥッと息をついた。
その時扉が開いて女中たちが入ってきた。
ルゼルを見て「まぁ」と声を漏らしながら頬に手を添える。
「せっかくお茶をご用意致しましたのに」
「でも相変わらず殿下だけは寝顔が変わりませんのね」
楽しげな女中の言葉にレリアは顔を上げる。
「クーだけ?」
「ええ。私たちは他の方々についている女中とも交流がございますの。
他の殿下方は寝ている間も眉間にシワを寄せているようですよ」
「眠りも浅いようで、こんなふうに幸せそうに寝ていることなんてないそうですわ」
「いつでもしかめっ面ですって」
クスクス笑っている彼女たちを見てレリアは口元が緩むのが分かった。
嬉しい。こうして一緒にいることで少しは彼の癒しになっているなら。
この世界では認められない私の存在が許される感じがする。
「私は思うのですけれど殿下には絶対セヘネ様よりレーア様の方がお似合いだと思いますわ。殿下だってレーア様をお好きなのでしょう?」
「そうですわ。殿下が優先していらっしゃるのはレーア様なのです。セヘネ様ではないのですから、堂々としていらっしゃって」
表には出られない、傍からは愛人としか見られないレリアを気遣う女中たちに微笑んだ。
「私は幸せだから良いのよ。このままで構わないわ」
「レーア様ぁ」
眉を下げる女中にレリアは目を細めた。
「良いの……今が幸せなら、他に何も望まないわ」
この人の愛以外は……。
手の中の柔らかな金髪を撫でる。掴まれた手に伝わるぬくもりが愛しい。
「秘密よ…?」
いたずらっぽく口元に指を立てると女中たちは口を噤んだ。
目の前に置かれたお茶を口に運ぶ。柔らかな味が広がった。