「わたくし、娘がどんな生活をしているのか聞きたいわ。ルゼル王子のことも」
彼女の笑みは人に絶対「いいえ」を言わせないくらい圧倒的だ。
ルゼルもここで断るのは得策ではないと踏み、笑みを濃くした。
「喜んで」
ルゼルは本気で逃げ出したかった。
せっかく来たと言うのに二人はルゼルそっちのけで話しているし、仕方ないからぼうっとしていると不意に話を振られて、答えられないでいると嫌味を言われ、また話し始めたかと思うとまた話を振られて嫌味を言われる。
その連続に嫌なものを感じていたルゼルは、その時セヘネの口から出た言葉に反応した。
「そういえば、私ここでお友達が出来たの。アユラさんて言って、とっても綺麗な人なの」
「アユラ?またおかしな名前をつける親御さんもいるのね」
「名前なんて関係ないわ。それでね、その人とても物事に詳しいの。料理だって私が知らないものを知っているし、この前はお菓子の作り方を教えてくれたの。今度作ってあげますね」
「まあ楽しみ」
レリアは小さい頃捨てられて物心ついた時は既に自分の食事は作れるようにならないといけなかったから、大抵のものは作れるし、知っている。
食事を必要としないメレイシアもレリアの作るものは食べていたらしい。
「何でも殿下の知り合いの方らしいの。お母様も今度会ってみて。本当に綺麗な人だから」
「それは楽しみだわ」
余計なことを、と思いながらも笑みは絶やさない。
「そうですね。彼女の作るものはとても美味しいです。一度召し上がって頂きたいものです」
あまりレリアのことを知る者は増やしたくないが、言われてしまったから仕方がない。
エメフレアの反応を見て取ったルゼルは視線をチラッと流した。その先には例の護衛がいる。
今レリアの話を出した時、一瞬彼の目が輝いたことをルゼルは見逃さなかった。