『レリアちゃん……私たちの大切なメレイシアの子供…』

その瞳がまっすぐレリアを見る。淡い色しか浮かべないその瞳だが、彼女はとても強い。


『欲の希薄な娘……』

「だって私は人の欲望を嫌うお母様の一番近くで育ったのだもの。自分が欲しいものに、いまいち興味がわかないの』

『本当に、人らしくない娘……さぁ、長々と話をしている時間はないわ。行きましょう?レリアちゃん』

ふわりと浮遊感に身体が包まれる。かと思って目を瞬けば次の瞬間には、塔の天辺に立っていた。
ツェーナはレリアの手を握って、不思議そうに見てくる。


『レリアちゃんはどうして飛ぶことを望むのかしら?』

「私は飛ぶことが出来ないから…」

下から窺うように見られているのが分かる。

『何処へ行きたいの?』

「………色々なところ」


淡白に、かつ無感動に答える。
分かったわ、と聞こえてきてフワッと目の前の銀髪が揺れた。

『傷付くのが分かっているのに離れないなんて、人間は愚かだわ…』

ポツリと聞こえてきたが無視する。


飛べる神々。そんな彼女たちに一番近いところに立っている自分なのに、私は飛べない。
飛ぶための手段を持たない。


彼女が城のあるところを旋回した時、レリアは無表情にそこを見下ろした。



見えるのは、一つの部屋の窓。そこから見える、『あの人』とその隣にいる可憐な面持ちの『お姫様』。











ーーほら、あなたには愛するべき人がいる…











私にしか微笑まないあなた。夜は甘い甘い顔をしたあなたは、昼とは違う冷たい目をしている。


昔は誰にでも笑顔を振りまくような子だったのに。


ーー違う


変えたのは、私。
女神の子供である私を愛するために、あなたは変わったの。

「バカな人…」

私を愛するために変わる必要なんてなかったのに。

愛してはいけない私を愛してもあなたにはなんの徳もない。



あなたは知らないでしょう?


私たちが出会ったのは冬の日。真っ白な雪に塗れた、凍えた私に優しく手を差し延べてきたあなた。



私はその日から、あなたの玩具(もの)…