知っているのよ?あなたには結婚すべき人がいることを。
私がいなくてもあなたはそのまま。私の存在があなたのことを揺るがすことはない。

人に望まれない私の命など、どうでも良い。



その時何処からか入ってきたらしい白い鳥が部屋の中でばたばたと飛び始めた。
落ちてきた羽根を見て顔をあげる。

迷わず鳥は飛んできて肩に止まった。


「ツェーナ…?今度はなぁに」

『レリア……王子はもういないの?』


聞こえてきたのは大人びた凛とした声。
すると羽をばたつかせた鳥は肩から離れた。そして隣りに降り立つ。

『可哀相なレリア…王子にこんなところに閉じ込められて』

「大丈夫よ?心配してくれて色々な施しをしてくれるから」

『何を言うの。こんなところに閉じ込めた張本人の息子を庇う必要なんてないのよ?』

下からじっと見られ、レリアは苦笑する。

「庇ってなんかないわ。私はここに入れられたことを恨んでもいないから」

『………』

鳥が黙ったと思ったら、次の瞬間フワッと手を握られた。
隣りにいるのは、銀の髪に薄い緑の瞳の儚げな女性。

『愛してしまうのは勝手よ?でも辛いのはあなたたちなの。周りが認めてくれない恋なんてやめて。あなたには私たちがいるわ…。人間には分からないあなたの大切さを、私たち神は理解しています』


この人は、神。この国を守る高位の水を操る神なのだ。
そして昔からの知り合い。私がこの国で蔑みの対象になる前から親しくしてくれていた、母のお友達。
だから、この人はレリアを心配してくる。こんなふうに自分を見て心を痛ませてくれる。


「ツェーナ…私が好きで愛しただけなの。私の好きにさせて?」

『どうして言うことを聞いてくれないの?本当にあなたは闇の女神メレイシアそっくり。頑固だわ』

ふぅ、とため息をつくツェーナはその淡い瞳を向けてくる。

レリアはくすりと笑いをこぼす。

メレイシア様とよく似ているなんて、それは当たり前。だって私はあの人の娘なのだから。