彼はレリアのことを詳しくは言っていないらしい。あちら側からは息子が五年前何処からか連れてきて人から隔離し、何故か婚約者以上に愛する謎の少女としか思われてはいないことだろう。
きっとメレイシアの娘だということも、今までどんな少女なのかも分からなかったはずだ。
そんな人がいきなり晩餐に呼ぶなど、何か企みがあってのことだろうと思ってはいたが、やっぱり外れてはいなかったらしい。
「きっと僕があんまり入れ込むから、興味湧いたんだろうな…」
「あなたが?どうして?」
「僕、あいつとは違ってレーア以外の女興味ないからさ。婚約者(セヘネ)に手も出さないほど入れ込んでる女に、興味湧いたんだと思う」
そしてもしその娘が自分好みの少女だったら、手を出すつもりでもいたのだろう。今のところ夜はルゼル、昼はトファダが張り付いているから近寄れはしないだろうが。
「だから、昼の間はトファダに何でも言ってくれて構わない」
「トファダさんは国王陛下の命令に背けないのではなくて?」
「大丈夫。トファダは母さんの国から母さんが連れてきたんだ。だからあいつの命令は聞かなくても良い。母さんの命令は重視だけど」
「お母様……」
彼の、お母様。
会ってみたい。
でも自分は決して日の目を見ることの出来ない女。彼女から見ればレリアは、ルゼルの愛人。だって婚約者のほうが彼の本当の妻になる人だから。
「………」
黙ってしまったレリアを見て、ルゼルはそっとその細い顎を掴むと自分のほうへ向けた。
「今、何考えてる?」
「……お母様に会ってみたいな、って」
「………」
分かっている。その人には絶対に会えない。それは彼にとって、難しい言葉でしかないのだ。
「僕も、会わせて言いたいよ……、この女性(ひと)が俺の大切な人だって」
「………」
そっと抱き寄せられて、レリアは目を伏せた。
夢のまた夢は、決してありえることではなくて。
所詮『夢』でしか、ない。