昼を過ぎたあたりで、今まで仕事をしていたルゼルが顔を上げた。

「そろそろかな…」

呟く目の前の王子が立ち上がって部屋を出て行くのを、トファダは追う。

「心配しすぎですって。レーア様は聡明な方です。そこまで過保護になる理由もないと思いますよ」

「過保護にもなるんだよ。レーアは綺麗だし、どっかの女誑しは狙ってるみたいだし。心配しないで守れるかっての」

普段はクールで落ち着いた話し方をするのだが、レリアが関わったときだけは口調が乱暴になるのは、何もトファダの気のせいではない。


「そういえば、お会いするのは久しぶりなのですが……元気ですか?」

「元気だよ。てゆうか、元気じゃなかったら僕も元気じゃない」

レリアの調子が少し悪いだけで仕事に身が入らないこの王子だ。それは確かに言えている。

「よくご自分のことが分かっているようで」

「皮肉言うのはやめてくんない?」

じろ、と睨まれてトファダは肩を竦める。


「警護のほうはよろしく」

「しかし、わざわざ俺が付くこともないと思いますけどねぇ」

「念のため。レーアは時々何考えてるか分かんないから」

「ご自分のほうはどうするんです?」

「自分の身くらい自分で守れる」

この王宮内では孤立している末の王子であるルゼル。それでも母の古くからの友人である貴族の息子であるトファダが護衛官としてついているから地位が安定しているようなものだ。
今まで危険を顧みず過ごしてきた無謀なこの王子に、何が出来るとは思えないのだが。

「心配?」

不敵に笑うルゼルに、トファダは迷うことなく頷く。

「当たり前です」

「大丈夫。お前はレーア守ってればそれで良いから」


一体この自信は何処から出てくるのだろう。
少し呆れるトファダだ。