シャツを来て上着を羽織ると今まで甘えていたあなたは何処かへ行ってしまう。

窓から入ってきた日の光に当てられ煌めく金色の髪。深く深く澄み切った青い瞳。柔和な面持ちのその顔は、朝がくると別人のように引き締まる。

「変なところはない?」

「大丈夫」

不思議なことに彼は夜ここに来る時にはもう次の日の服を用意してきている。そしていつもここで着替え、仕事へと向かう。

「さて、レーア。行ってらっしゃいのキスはまだ?」

悪戯に笑って待っている王子に私はついつい口が緩む。

「行ってらっしゃい…」

ベッドから立ち上がって背伸びをし、その人の唇に触れるだけのキスをする。

でも目の前の王子様はそれだけでは満足しなかったようで、ムッと子供のように拗ねた顔をしていた。


「レーアの愛情表現は淡白で悲しいな。僕を愛してはいないの?」

「私はちゃんとあなたを愛しています。わがままな王子様。夜あんなに私が愛を囁いてあげているのに、満足なさらないのですか?」


あなただけにいっぱいになって。あなただけに愛されて。普段は誰にも許さない身体を許し、キスを許す。

でもあなたはそれだけでは満足してくれない。


挑発するように言うと、彼はそっと腰を抱き寄せてきた。一瞬後には彼の腕の中。


「こんなにも愛しているのに、君はどうして僕に心をくれないの?」


「意地悪な方。私はあなたを自分のものに出来ないと言うのに、私には自分のものになれとおっしゃるの?」

それはあまりにも不公平だわ、と言うと口付けられた。

長い長い彼の仕返しの後、彼は不敵に笑った。


「君は僕のもの。そして君の心も僕のもの。だから最初の夜に言ったはずだよ。"僕"はあげられないけど、僕の心は君のものだって」

私たちは相思相愛にはなれない。でも、だから互いに心はあげようと。

「僕の心は…君だけのものだ」

そっと耳元で囁くと、彼は去って行った。
『また夜に来るね』と言い残して。