レリアはその王子の顔を覗き込む。

「私の名前はレーア。あなたは?」

「……ロアルにもらったのは、クール。本当の名前は……、ルゼル」

『本当の名前が嫌だっていうから、俺はクーって呼んでる』

後ろのロアルを見ると、彼はほのかな笑みを浮かべている。
どうやら彼もメレイシアのように供物に名前を与え、可愛がっているのだろう。

「じゃあ私もクーって呼ぶわ。けれどどうして私を人の世界に?」

「………」

尋ねると何故か彼は黙り込んだ。首を傾げると、ロアルが苦笑する。


『一目惚れなんだよねぇ、クー。君に』

「……え?」

「ろっ、ロアル!!」

顔を真っ赤にして王子が叫ぶ。それにも構わずにロアルは近付いてくると、彼の頭をかき回した。


『俺だって驚いちゃったよ。八年前?だっけかに父親と帰ってきてからというもの、父親は何か怒りまくってるし、クーは話しかけても上の空だし。理由聞いたらメレイシアのところで育ててる娘に一目惚れなんていわれてさ。俺だってさすがにあの時は天と地がひっくり返るかと思った』

「そんなにですか……」

何千年も生きてきた彼がそういうのだから、王子の言ったことはそこまで意外だったのだろう。
じいっと見つめると王子は顔を赤くしてそっぽを向いた。

「あんまり見ないで下さい……恥ずかしいから」

『かっわいいねぇ、クー』

ニコニコと笑って更に髪をぐちゃぐちゃにする。それから逃れようとしている王子にレリアはくすっと笑った。


『だからさぁ、俺すごい頑張ったよ?メレイシア説得しようとするにも、
『何故私が説得されねばならぬ!?そいつを説得しろ!大馬鹿者が!』
って言われるし、でもクーは納得しないし。どれだけこの森とクーの間を往復したか分からないよ』

やれやれ、という風体で前髪を掻き上げるロアルは、それだけ苦労したのだろう。何せ相手はあのメレイシアだ。
たとえ恋人と言っても、説得は難しいに違いない。