メレイシアが去り、ロアルが盛大な溜め息をつく。
『良かったね、クー』
「はい。ありがとうございました」
額に浮いた冷や汗を拭い、王子はレリアに近付くと手を差し出した。
『あんまり座っていて、寒くはないの?』
悠久の雪・寒さを持つメレイシアの森。この森に季節などなく、きっとメレイシアの心の寒さが埋まることがない限り、この森に季節など来ることはない。
「大丈夫。慣れているから」
『メレイシアが身体の表面的なものは俺たちと同じにしていると言っていたから、きっとそのせいだよ』
長い間裸足で雪に触れていても赤くはならない。その身体が凍えることすら。もうきっと、レリアはメレイシアの娘に近くなっている。
「それより、どうしてお母様を怒らせることを承知であんなことを?」
尋ねるとロアルは苦笑した。
『クーは、君と同じ立場にある人間なんだよ』
「と、申しますと?」
『君と同じ、いつかは神と同等に扱われる立場になる子なんだ』
レリアはハッとその人を見上げた。
人々は十年前レリアを女神メレイシアへの供物として森へ送り出した。それと同じように、他の神にも違う名目で『供物』は与えられている。
そしてロアルの供物が、この王子。
「王子を供物に捧げるとは、どういうことですか?」
『俺もそこは悩んだよ。でもそれは、彼に聞いたほうが早い』
視線を投じれば、困った顔の王子。
その王子にレリアは手を伸ばして手を取り、立ち上がった。
「あなたも私と同じでしょう?」
『要らない子』だから捨てられた。死んでも良いとされた、この世で不必要のレッテルを貼られた人。
私と同じ、世界に存在価値を見出せない人。