「条件を呑んでいただきたい。僕と彼女は似たもの同士……きっと分かり合えます」

『何の分かり合いだ。何が嬉しくて娘を道具に扱うとしか思えぬ連中に渡すことが出来る?』

鋭い視線を向けられても、王子は毅然としている。
あのメレイシアの冷たい瞳は他の神すらも硬直させてしまうほどなのに、それを意にも介さない。随分図太い神経をしているか、それとも……。

「お願いです。人の世界を見ることは、人間の彼女にとってマイナスにはならないはずです」

『………』

いまだ良い顔をしないメレイシア。
彼女はそうっと流麗な仕草で視線を流してきた。

『行きたいか、レーア。人の世界に』

「人の…世界……」

人間の、生きる場所。本来私が生きていたはずの場所。


『私はそなたの好きにさせてやろう。本当は私たちと同じモノにしてからにするつもりだったが……そなたが行きたいと望むなら、出してやらぬことはない』

黙り込んだレリアを、メレイシアはただ見つめ続ける。底知れない輝きをまとうその瞳は昔から知るもので、彼女は変わらないのだとホッとする。

「……一度だけ、行ってみたい」

ポツリと呟くように言う。
メレイシアは視線を王子に向けた。


『だそうだ。しかしこれだけは守れ』

女神はゆっくりと瞬きをした。
王子の緊張が伝わってくる。

『レーアに手を出すようなマネはしないこと。
五年経ったらレーアを我が元に戻すこと。
それが守れなければ、私はこの国を滅してやろう』

「……分かりました」

頷く王子をじっと見据えたメレイシアは踵を返した。その時。
『これだから人間は嫌いだ……』

小さな呟き。それを残して彼女は消えた。