『すごいね。人間の子供の成長は早すぎる。この前来たときまだ胸はぺったんこだったのに』
「変なこと言ってるとお母様に言いつけますよ」
『それは困るな。メレイシアは怒るに決まっているんだから』
くすくすと笑っているロアルはしかし、すぐに顔を改めた。
いつも微笑んでいる顔しか見たことのないレリアはそんな顔を見るのは初めてで、何かあったのだと分かった。
いつも会いに来た理由で来ているんじゃない。この人は、違う用で来たのだ、と。
『何をしに参った、ロアル』
聞こえてきた声に視線を投じれば、そこには綺麗なメレイシア。でもいつもとは違って鋭い目をしてロアルを見ている。
ロアルが困惑に顔をしかめた。
『それも私が嫌いなものまでくっつけて』
何のことだろう、とメレイシアの視線の先を見れば、そこにいたのは見たことのある金色の髪に青い瞳の少年。--成長した、あの王子。
『下衆の子供を我が庭に入れるな。不愉快だ』
『メレイシア、そういう言い方はダメだよ。それにもう、時間が来てしまったんだ』
何の話だ、と二人を交互に見ると、メレイシアが憎々しげに顔をゆがめた。
『説得すると申したではないか!あの言葉は偽りか!?』
『違う!違うんだ……』
弱々しく俯くロアルを見上げると、その顔はとても悲しそうで。
二人は私の話をしているんだろうな、と何となく分かってしまった。
「お母様……?何の話?」
声をかけると、やっと我に返ったと言う風体のメレイシアが下唇を噛んで俯いた。
そんなメレイシアは初めてで。今日は初めてのものをよく見るな、と客観的に物事を見ていた。
「女神メレイシア」
緊迫した空間に届いた凜とした声。
振り向けば、少年がメレイシアを揺らぎのない真っ直ぐな瞳で見ていた。