「母親……だと?」
先程レリアに向かって矢を放った人。ギュッとメレイシアの薄いドレスを握る。
そんな私の頭上で、ただ目の前のその人を見つめるメレイシア。
『化け物が子供を生むのがそんなに珍しいか?しかし残念ながら、この娘は私の本当の子供ではない』
誰だってレリアを人間とは思わないだろう。レリアは育っていくうちに少しずつ、周りの環境のせいで神秘的なものをまとうようになった。それも、髪や瞳の色が違おうとメレイシアに似ていると思われるほどに。
『レーアはまだ七つの人間の子供でしかない。そのうち私と同じ時を生きるモノにしてやろうとも思っておるがな』
レリアは驚いた。
そんなの初耳だ。だって彼女はレリアに今以上のものを求めたことがない。ただそのままでいいとしか言わなかった。
「闇の眷属を増やすと言うか……!」
顔をゆがめる男は少年をほうっておいてメレイシアに近付く。
もう触れれば手が届くと言う距離にきていたとき、男はレリアしか見ていなかった。
その男が手を伸ばす。
しかし、その手がレリアを捕まえることはなかった。
何も変わっていない気がするのに、その人たちとの距離だけがいつの間にか開いている。
メレイシアがレリアを抱き上げた。
『触れるな、下衆の分際で。私のいとし子に貴様ごとき世界の汚物が触れられるわけなかろう』
冷たい冷たい銀色の瞳。今までに見たことがないほど冷気を帯びた彼女に、さすがのレリアも体を震わせる。
風にさらわれた粉雪が舞う。それは彼女を避け、彼らに当たりに行った。
ここの森のものはすべてメレイシアの意のままに動く。この森自体が、彼女の支配下にある。
『二度と来るでない。今回はレーアがいるから見逃してやるが、次に無断で入って来た時には容赦はせぬ。脚を踏み入れた瞬間にこの世の塵と化してやろう』
冷たく言い放ったメレイシアが森の闇と同化する。それと共にレリアも人の前から消えた。
その後に雪で赤くなった脚を暖めながら彼女に言われたのは、注意の言葉。
『あの国の者に近付いてはいけぬ。心を許してはいけぬ』
『見つかったら殺されてしまう』
『私がそなたを神と同じ部類に入るものにするまで』
--そなたは、この森から出てはならぬ。