レリアは奥歯をかみ締めた。握った手に力を込める。

メレイシアを悪く言う人なんて殺してしまいたい。でも私にはあの人たちの持つ武器に敵うものがない。




「大丈夫!?」

聞こえた声に顔をあげれば、そこにいたのは先程の少年。青い瞳が真っ直ぐ自分を見てくる。
と、少年が手を差し伸べた。

驚いてその人を見上げると、彼は微笑んでいる。
その笑みはまるで……。

『レーア』


聞こえてきた無感動な声。ハッとして振り返ると、そこにはメレイシアが佇んでいた。

『おいで』

静かな声にはじかれるようにその人の元へ行く。脚に引っ付くと彼女は頭を撫でてきた。

『やっと慣れたと言うのに、こんなに多くの狼たちがいては、私の可愛いウサギが食べられてしまうではないか』

ふう、と息をつくメレイシアの目は、いつものほのかな優しさなどまるでなく、鋭利な刃物のようだった。

彼女はとても優しい。でも『神だから』と人と触れ合うことをしなかった彼女にとって、知らない人間など生きていようが死んでいようが同じこと。そして彼女と会ってしまった人間の生死は、彼女の機嫌によって決まる。
だから、私はあの時生きられた。彼女の機嫌が普通だったから。


『私が化け物とはよく言ったものだ。そうではないか?カリオルスの王子殿』

メレイシアが鋭い目を男の子に向ける。
ハッと息を呑んだ彼の脚は竦んでしまい、動けないのだろう。

「め……女神メレイシア……」

『安心せよ。レーアを庇ってくれたそなたを殺そうとは思っておらぬ。しかしそなたの父君はどうか……』

クスクスと笑うメレイシアの視線が流される。王子はハッとしたように後ろを見た。

「父上!」

駆けていく少年を見つめるメレイシアの目は冷たい。レリアはそっとその人を見上げた。

「おかーさま?」

『大丈夫だ。そなたは守ってやる』

いつもの優しい瞳。
それにホッとしたレリアは撫でてきてくれる温かい手のひらに目を伏せる。
そんな二人の前に、父親を連れた少年が戻ってきた。

二人の顔は驚愕に青ざめている。