悲鳴が響き渡る。
跳んでくるガラス片からセヘネの母親を庇った。

目を開けて前を見た瞬間、目を見張った。



靡く、白いドレス。夕焼けに輝く長い金髪。それに加わる闇の色。


「てめぇ……!!」


思いっきり自分を睨み付けるルゼルを、気絶したレリアを抱いたヤツは不敵に笑ってみている。
その男を見て、セヘネの母が呆然としたように呟いた。


「ユヒス……?あなたどうして……」

「レーアを離せ、吸血鬼!!」


頭に血が上ったルゼルは叫ぶ。そんな、余裕もヘッタクレもないルゼルに、ユヒスは失笑を漏らす。


「王族としての名が泣きますよ、王子。それにレーア様は我らがメレイシア様の娘。連れていっても何の問題もないでしょう」


メレイシア、の言葉に周りが一気に顔色を悪くした。そそくさと窓際から離れる。


「まだ約束の期間まで半年あるんだけど。約束破る気かよ」

「約束も何も、レーア姫がメレイシア様の元に戻ることを望んでいるのです。我はそれを叶えようとしているだけ」



レリアが自らメレイシアの元に帰ることを望んだ?
そんなバカな。だってさっき、レリアは僕に抱かれた。キスに応じ、僕の心に応じて。


「レーア様は我々の世界の姫君。あなたなどにはあげられない貴重な方なのです」

「……っ」

「それとも何ですか?愛だけで姫様と共にいられると?」


夢を見るのも大概にしなさい、と言われてルゼルは黙り込んだ。でも依然として睨むことはやめない。


「いくらあなたたちが相思相愛でも、世界の掟には逆らえません」

「………」


そんなこと知っている。何度も諭されて、受け入れようとして、だけど受け入れられなかったことだから。
そんな分かりきったこと今更言わないでも分かっている。



ルゼルが黙り込んだことに自分の言い分が勝ったと分かっているユヒスはルゼルの後ろに視線を向けた。