(人間……)
なんでこんなところに?ここは人が入り込まないメレイシアの森だ。好き好んで入ってくる者などいない。
愚かなさまよえる子羊たちか、否か……。
レリアは目を細めた。
何やらこちらを見つけたらしい相手側が騒がしい。何かを言っているようだが、距離がありすぎて聞こえてはこない。
と、いきなりその人々が腰に下げていた剣を抜刀した。後ろでは弓矢を構えている者たちさえいる。
レリアは息を呑んだ。
こんな誰も近寄らない森に一人いたことによって、相手に不信感を与えてしまったらしい。きっとメレイシアの森に巣くう魑魅魍魎(ちみもうりょう)の一匹にでも思ったのだろう。
「放て!」
「……っ!」
声が聞こえてきて、レリアはハッとした。自分に向かって放たれる矢。
それを、しっかりとレリアの金色の瞳は見つめていた。
「危ない!避けて!」
聞こえてきた声に視線をやると、一瞬だけその叫んだ男の子と目が合った。
ーーバキッ!!
鋭い音がして、払った手によって矢がすべて払い落とされる。粉々に砕けて雪の中に散乱したその残骸を、人々は茫然と見ていた。
その中で先程の男の子が一番に我に返った。
「父上!あんな女の子に凶器を向けるなど、して良いことではありません!」
「何を言っている!今の光景を見たろう。あの子供はただの子供ではない!メレイシアの森に巣くう化け物だ。即刻退治しろ!」
「父上!」
何やらもめているのが分かる。けれど自分には関係ないと思い、立ち上がった。雪をぱっぱと払って走り出そうとする。
けれども、相手は予想以上にしつこかったようだ。そう簡単には逃がしてくれず、レリアの足元にもう一本矢が刺さった。
振り向けばまた弓に矢を番えている男が映る。
「化け物の化身が!」
ーー良いか?お前は私の娘だ。神の娘がそうめそめそとしていてはいけない。強くおなり、レーア。私の娘
耳に浮かぶメレイシアの声。神であることを誇りに思う彼女は、誰よりも神らしくて。あそこまで綺麗で誇り高い女神は他にいないのに。
誰が、化け物?