「………」

結局はみんな世間体ばかりを気にする。だからこの人もお母様も面では敵のように振る舞う。

その瞳の奥を"愛しい"という色で一杯にしながら。


この人たちは私にすらその業を背負わせたがる。愛しい人を憎めと強要してくる。

なんて悲しい人たちだろう。


「……じゃあ、私がメレイシアの娘を止めたいと言ったら?」


静かに、水面に波を立てないくらい慎重に流される水のごとく、発せられた声。それに二人はハッとしたようにレリアを見た。

その目にはレリアの正気を疑うものがあって、


『レーア……それ、本気でいっているのかい?』


さすがの神にも予想外だったようだ。


レリアはその、神が人間ごときに振り回されているのを見て笑いを浮かべた。


「だって、そうすれば私の子は何の壁もなく生まれてこれるでしょう?だったらお母様の管轄下から離れるのが一番手っ取り早いわ」



それに、その方が色々と問題も起きなくていい。


そう言ってレリアは視線を逸らした。
深い憂いを溜めた瞳に、睫毛によって造られた影が映り込む。


「私の秘密は誰にも知られてはいけないものだもの。それを知られるリスクを冒してまで私を置いておくメリットなんて、ないでしょう?」


良く今までバレないでいたと思う。こうしてまだ神の……メレイシアの娘でいられることは奇跡に近いのかもしれない。