どうやってここまで来たか覚えていない。
ただ絶望的な思いがグルグルしている。

淡い期待は捨てた。
期待して後でどん底に落とされたくないから。



『愛しているの』

君の、切なげな声がまだ耳に残っている。


思うことはある。

あぁ、僕への思いを口にしてくれたのか、とか。
そこまで大事にしてくれたのか、とか。

違う。違うのに。

彼女の声と態度で違うなんてすぐに分かる。

あれは僕に対して言われたものじゃない。あの男に対して言われた言葉。


――"『愛しているの』"

僕に対して言うことを躊躇ったその言葉を容易く言ってもらえる立場が羨ましい。


『この子を……生みたいの』

子ども。
君の、子ども。


僕と彼女の間には絶対に子どもなんて出来ない。
だって、属性が違う。

反発が強いから。それゆえに子どもなんて絶対にありえない。


――裏切られた

君は、僕を裏切った。ここで唯一の味方だった僕を。

なんで?


もう何も考えたくない。
仕事が終わってないから帰らないといけないとは思うけど。トファダに怒られるかな、とか思ってみたけれどその考えはすぐに消えた。

あいつは今仕事サボってるから人のこと言えた義理じゃない。

そういえばこの頃良くアイツサボるなぁ、とか思っていたとき、


「殿下?」

聞き慣れた声に振り向く。
そこには茶色い髪の、瞳を驚きに見開いている人がいる。

「セヘネ……」

誰もが羨ましいという純粋な婚約者。
綺麗な……綺麗な娘。

「どうかしたのですか?」

純粋すぎて憎らしい娘。レリアが汚れがなくて羨ましいと言った。