痛いはずなのに、痛くない。
痛くない、痛いなんてあり得ない。
だって私は、メレイシアに守られている。
私にとって、誰が一番大事―――?
ハッとしたときは、もう遅かった。
自分の首に刺さる爪。それは、普通人だったら傷つけられたら死ぬほどの大事な血管の流れるところを捕らえていて。
しまった、と思った。
私は人間じゃない。でも魔物でもない。それなのにメレイシアには大事にされている。だから死なない。否、死ねない。
ボタボタ流れる血。
真っ赤。
そう真っ赤。
私の血―――…
「姫様!!何をやってるんです!!」
気付いたとき、目の前にあったのは赤い色。
鋭い猫目が私を捕らえている。
「ミース……?」
「ミース、じゃない!何をやってるの!!」
怒りのあまり敬語を忘れているミースに茫然としながら彼女の顔を見ている私に、表情を和らげた彼女はため息をついた。
頬に触れてくる手は、冷たい。
「何してんですか、レーア様」
「………わ、たし…」
「真っ赤に染まっちゃって。ユヒスが慌ててたのよ?」
あぁ、ユヒスは吸血鬼だから、きっと逸早く匂いに気付いたのだろう。
だからミースが様子を見にきた。
「何をしてもらっても良いけど、自虐行為だけは認められないの」
「………」
自虐行為?
これはそんなものじゃない。
でもミースはきっと理解できない。
「もうしないで下さいね」
お願いだから、と。
そう言われたけれど私の耳にはほとんど入らなかった。
ただ私の心の中にあった思いは。
それは――。