闇の一族は一応上下関係があるが、そこまで煩くはない。だからこうして感情を態度に出されても何とも思わない。
他の一族は細かいことにも煩いらしいが。
「トファダ、あなたあの王子がレーア様を手放しそうな条件は見つかったの?」
「条件など……レーア様以外にいるか?あの王子の弱みはレーア様以外の何者でもない」
どうやら私をルゼルから引き離すための会談が始まったらしい。
でも私は口を挟まない。挟んだところで何になるわけでもない。
「どうせ引き離すならボロボロにしてやりたいなぁ。もう二度と姫様に手を出さないように」
クスクス笑うミースに同意するようにユヒスが薄ら笑いを浮かべる。トファダは相変わらず取ってつけたような笑みを浮かべている。
「そのボロボロになる日も、近い」
……なんと物騒な。
私たちを引き離してそんなに喜ばないでほしい。
「着替えるわ……」
「どーぞ」
ルゼルと私が別れることでこんなにみんなが喜ぶなんて。
歓迎されない恋愛だから分かってはいたけれど、結構落ち込む。
隣り部屋に移動した私は鏡を見つめて服の襟を広げた。
「……………」
ない。
ないの。
ルゼルがあんなに念入りに付けた赤い痕が。
ただ真っ白な肌があるだけ。
「……、…ッ」
思わず衝動的に首をかきむしった。綺麗に整えられた伸びた爪を皮膚に突き立てる。
ガリッと音がして皮膚に赤い線が走った。
「うっ……あっ…」
掠れた声を出しながら爪は白に赤を走らせる。
痛さなど感じない。痛いなんて思わない。
ただ胸が痛い。内側からその痛みに侵されて、目端に涙が浮いた。