自嘲を浮かべたレリアはユヒスに手を伸ばした。
「私が好きになったのがあなただったら良かったのに」
「………」
「そうすれば、私はお母様を裏切る醜い女になど成り果てなかったわ」
言いたいことが見つからないのだろう、ユヒスは赤い瞳を曇らせる。
それに苦笑した。
「何も言わなくて良いのよ?同情はごめんだわ」
伸ばした腕を下ろして、それで目元を隠す。
「ずっと私だけを見ていてほしいの……その目が私以外に向かないように、私だけのあの人になってほしいのに…、それが叶わないから悲しい……」
どれだけ思っても、結ばれることはない。あってはならない。
「愛しているだけなのに……」
「…、気の迷いです」
静かに聞こえてくる声に涙が出る。震える唇を噛み締め、漏れそうになる嗚咽を堪えた。
「そう、なのよね……」
震える声で答える。熱くなる目に、必死で腕を押し付ける。
「手伝って下さるんでしょう?私の計画を」
「……そのために私は来たのです」
ユヒスが笑った気配がして、レリアは微かに息を吐き出した。
「手伝うからには、完璧にクーを騙してね?」
全てはあの人のため。一人で寝ることも出来ないくらい私に依存したその人を、解放するために。
私は、あなたを捨ててあげる。
「仰せのままに、姫君」
目端で黒い髪が揺れる。でもそれを見て思うことはない。
『愛してる』
そう囁く低い声も、微笑みに細められる瞳とそれを縁取る長い睫毛。
全てが愛しくて。
「大丈夫……」
今ならまだ、手放せる。
私の心の中にある想いは、人の言うような柔らかいものではない。
例えるならば、血色。今私を包んでいる真っ赤な薔薇のような。
「大丈夫……」
まだ、まだ―……