悲しさにただ泣きじゃくっていた。

そのとき、不意に背中がぞくりとした。異様な寒さに涙が引っ込む。


『また寄越したか……愚かな人間たちだ。人と言う生き物は仲間を大切にしないのだな』


厳かな声がして、レリアはハッと振り向いた。
泣きはらした目を向けると、そこには一人の女がいた。


濡れたような漆黒の髪と星のような綺麗な切れ長の瞳。ドレスを着た彼女は、雰囲気だけでこの場の主であることを物語っていた。


『可愛いらしい子供。金の髪に金の瞳……まるでロアルのようだ。なんとも皮肉だな。私に寄越したのがこんなに光の性質の強い娘とはな』

クスクスッと笑うその人を見てレリアはと身体を震わせた。


(この人が……この人が闇の女神メレイシア…)


体を包み込む寒気と怖気。人の形をしていても、全く異なる雰囲気を醸し出している。身体全体から拒絶されているようなものが伝わってきた。

『ふふふ…可愛らしい娘よ。そなたに選択させてやろう』


女神の戯れに、レリアは唾を飲み込んだ。

その人の切れ長の瞳が細められる。


『時間を与えよう。その間に帰りたかったら帰るが良い』


微笑む女神の瞳は面白がっているだけだ。
そしてこれはただの遊び。彼女は私を助けるつもりなんかない。


絶望を抱えて逃げ惑うか。潔く一瞬でことを終わらせるか。
ただ、生きる時間がほんの少し変わるだけのこと。



ずっとその場に立っていると、女神は眉をひそめた。


『何故逃げぬ?他の娘は皆、喜んで逃げて行ったと言うのに』


「……………私には帰る家はありません。帰って行って待っている家族もいない……。だったら、ここで死んだほうが幸せでしょう?」


誰もいない。私の死を悼んでくれる人も、帰って行って喜んで抱き締めてくれる人も。
だったら、私はここで死にたい。