すだれから零れる陽光が、真琴の顔に格子状の模様を描いていた。
庭先の木々からは途切れる事の無いセミ達の声が聞こえ、その中に時折、涼しげな風鈴の音色が混じり合う。
色褪せた畳の上には勉強机と化したちゃぶ台が置かれ、その上には教科書、参考書、ノートが乱雑に散らばり、その隙間には氷が溶けてしまったコップが淵に水滴を蓄えていた。
座椅子の背に深くもたれかかり、ぼんやりと庭先を眺める真琴…手にしたペンの先が文字を書くわけも無く宙を彷徨っている。
「静かな所に来て息抜きするんじゃなかったの?」
不意に背中から声がした。
真琴は振り返ると声の主である祖母を見あげる。
祖母の小夜は少し呆れたような表情で腕を組むと、真琴の返答を待っていた。
「そのつもりだったんだけどね…なんか落ち着かなくて…気がついたらつい、いつもの癖で…」
ちゃぶ台を占領する教科書、参考書の言い訳をすると、自分でも何故だろう…?と言いたげに小さく首を振って見せた。
「ちょっとでも受験の事忘れられるかなって思ったんだけど、ダメね…なんかみんなに置いていかれるような気がして…」
「わたしにはわからないね…そこまで白分を削って背伸びしなくても、入れる高校がないわけでもないのに…」
生まれてからずっとこの土地で育ち、受験勉強とは全く無縁で育った小夜には、真琴が追われるように教科書の虜になっている事が理解できなかった。
時代の流れ…と言ってしまえばそれまでの事なのかもしれないが、それ程までにして良い学校へ行かなければならない理由が見当たらない。
それよりももっと大切な事があるのでは…?
帰って来てからも受験の事で頭がいっぱいで『心ここにあらず』の孫を見る度に、小夜は言いようの無い寂しさを感じてしまうのであった。
小夜のそんな気持ちを察すると真琴は複雑な心境になる。
祖母の言うように、自ら『息抜き』と称して田舎である香川県に帰って来たと言うのに、ここで過ごしている期間、ほとんど家から外に出ていない。
―確かに、これじゃあ東京にいるのと大して変わらない…おばあちゃんの言う通りだわ…
そう自覚はするものの、真琴には今の状況をどうする事も出来なかった。