むかし、金貸しをやったとかやらないとかで、内の川と外の川の間、溜まり、と呼ばれているところに外されていたらしい。

いまは役場近くに離れもある大きな家に住んでいるけれど、誰からも相手にされていない。

そのせいか薬師は50歳近くになったいまも独身で、八十過ぎの母親とふたりで住んでいる。

「はい、なんですか、先生」

国語の成績は誉められたものじゃないけれど、とくに呼び止められるほど悪いわけでもない。

薬師は、細い目をもっと細くして、いやあ、なあに、といった。

笑っているみたいだ。

「離れの人たちのとこに、よくいらっしゃるお客さんがな、三下、おまえの母さんにそっくりだて聞いてるか?」

俺は、はあ、とだけいう。

どうして薬師の家が外されたのか、すこしわかる。

金貸しのせいだけじゃない、人の家の玄関もよく見てしまう、その習性からだ。

「もういいですか?」

冗談じゃねえよ、そんな糞みたいな話で呼び止めんなよ、これからイワクラの打ち合わせだっていうのに、このゲロ狐。

腹の中で叫びながら、俺はくるりと背を向けかけた。

「いやいや。あのな。イワクラやるんだよな、来週の土曜」

あわてたそぶりの薬師の口から、イワクラという言葉がでて俺はすこし驚く。

薬師の家が民族の儀式にかかわるなんて、あり得ないからだ。

「それで、うちに色々あるんだよ。送りたいものが。悪いんだが時間のあるときにちょっと見に来てくれんかな」

俺だけでなく、そのとき職員室にいた先生、生徒、全員が薬師を見たと思う。