「どんなもの」

佐藤は食い下がる。

もう二度と失敗したくないんだろう。

俺だっていっしょだ。

「熊とか」

「はあ?」

「ぬいぐるみだよ。舞がもってる」

「ああ。Aの舞ちゃんねえ」

思わずぶん殴りたくなったけれど、ぐっとこらえた。

こういうとき、生徒会長という肩書きは自分をコントロールするのによく効く。

佐藤の家のほうから、佐藤の母さんの、ご飯ですよお、と呼ぶ声がきこえてきた。

あたりはすっかりと暗い。

俺たちは無言のまま、来た道を戻り始める。

玄関を入るとき、ようやく、佐藤が、いいかもな、とぼそりといった。

「ぬいぐるみ、いいかもな。問題は来週の土曜まであれが持つかどうかだ」

「持つよ。たぶん。かなり弱るとは思うけど」

なにやってたんだ、おまえら、せっかく揚げたてのかつがさめるぞ、とうきうき顔のおやじにせかされて食卓についた俺は、佐藤の耳元でつけたした。

「だって、おまえの畑んとこの水路じゃん」

佐藤は、にやっと笑ってから、やっぱりAなのねえ、と鼻にかかったお姉言葉でいった。

「なんだおまえら、気味悪いぞ」

すでに二枚目のかつをほおばりながら、親父が楽しそうにいった。