「佐藤のせいじゃないさ。邪のせいだ」

俺はミルク色の水の塊を覗き込む。

はぐれたのに、邪にたかられないでこんなとこで動いてるなんて、けっこう凄いことだ。

鳥の一部だったのなら、チャシにもぐりこんで飽和した後は、カラスの背にでも乗っていけただろうに。

邪にたかれたのなら、あっという間に干からびて消えるだけだから。

「どうしたものかなあ?」

間延びした声で佐藤がいう。

佐藤の母さんの、この子は野球ばっかりでほんとにアホだから、といったのが耳に甦ってくる。

「正婆に相談したほうがいいかな?」

「いや、しないほうがいいよ」

俺はとっさに言った。なんだか、しちゃいけないような気がすごくしたんだ。

ユーカラの風がふいてきた。

正婆の家とは反対の方向にある山の端の森から湧いてくる風。

佐藤は反応しない。

佐藤の家系にその因子がないんだ。

俺は、風の吹いてくるほうこうに顔をむけて、胸いっぱい、一息で吸い込んだ。

深呼吸って、効く? と佐藤の間抜けな声がちゃかす。

「イワクラでいっしょに送ろう」

「え? 鳥だぜ、これ、たぶん」

「ものに憑けて送れば、問題ないんじゃん」