「で、正婆は、俺の耳の傷が、邪、のせいだっていってたか?」

「ああ、いってたな」

佐藤は目を白黒させて、そうか、とうなずく。

佐藤の耳が切られたオプニカの夜からまだ、三日しかたっていない。

舞の親父さんと雑誌ライターの湯本さんの事故や、湯本さんの学校訪問、イワクラの実施の計画なんかで、こうしてちゃんと佐藤とあのことについて話すのは始めてだ。

「じゃあ、なにかよ。俺のじっちゃんの代からのツーパに邪がのりうつって耳切ったってことかよ」

本当に気分が悪そうに佐藤は、げえ、といった。

俺は、ううううん、とうなってオレンジジュースを飲みきる。

佐藤のじっちゃんは、うちのじいちゃんと同じように、‘ここらへん’の自治を勝ち取った、首長の一人だ。

うちのじいちゃんよりは早くなくなっているけれど、あの、‘ここらへん’をあげての葬列はすごかった。

黒地に喪の文様を染め抜いた巨大な旗のもとに、3つの世界から数え切れないくらいの参列者が連なった。

夜も昼も、空からの厚い雲と、川からの濃い霧にすっぽりと隠されて、葬列は延々と数日に渡って続いたんだ。

うちのじいちゃんのときなんて、自死だったから、そういうのはなかったし。

「のりうつったんじゃなくってさ。たかってきて動かしたんじゃないか?」

「ああ、虫がたかるみたいにね。それならまだわかる」

佐藤は俺の言葉にうなづいて、インスタント焼きそばについていたスープを一気に飲み干した。

そのとき佐藤の母さんの声が聞こえてきた。

「淳くん、お父さんよ」