「おうおう、よくきたな」

正婆は、半月がすこし出ているっていうのに、機嫌がよかった。

山の端を、ぐいぐい上ってチャシの横をとおりすぎ、ああ、ここ、思い出すね、と喜ぶ舞をせかして、一見、道のないところを右にむりやり入る。

小さな水溜りが二つ三つあるのを、ばしゃばしゃと渡って、白樺が数本空に伸びている茂みかの下を、よいしょっと潜り抜けると、正婆の家が見える。

かわいい! ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家みたい! と興奮する舞をなんとかおさえてちかづくと、すぐに、複雑な文様が彫られた木の扉がぎいっとあいて、まずアイが、そして正婆が姿をあわらしてくれた。

だから、俺たちは家の前で挨拶を交わした。

「先日はいろいろ教えてくださってありがとうございました」

舞は可愛い普通の十五才になっている。

東京の女子ってやぱり怖い、と俺はぼんやり眺めている。

正婆はとうぜんなにもかもわかってるんだろうけれど、舞に色々きいている。

ご両親は? とか 兄弟は? とか おじいさんやおばあさは? とか。

舞は一生懸命答えていた。

母親のこともちゃんと話していたけれど、はあ、わかった、と精神の病気のところで正婆は舞の言葉をさえぎった。

正婆にも、あの映像が見えたのかな、と俺は思った。

「ここらへんはな」

正婆が質問に答え終えた舞をうながして家のまわりをゆっくりと歩きはじめる。