舞のすっとんきょうな声が、あたり一面に響きわたった。

木々がゆらゆらと大きく揺れて、役場の窓の一つが小さく開いた。

「ごぼうじゃないけど、あの、そのちくちくする変な感じっていうのは、真剣に病気になりそうなくらい変なのかな?」

 間抜けな質問だった。

 あは、と舞は笑った。馬鹿にしてるみたいな、でも面白くてたまらないみたいな、笑い。

「そんなことは、たぶん、ないと思う。気持ち的には、目覚ましをずっとかけられてるみたいな感じ」

 鋭い。

 思わず叫びそうになったのは、たぶん、嬉しかったからだ。

 とっさに思い出したんだ。じいちゃんの言葉。

「おまえの母さんくらい、鋭く切れる女はおらんかったぞ」

 一昨年死んだじいちゃん。

 五年前の冬に失踪した母さん。

 でも、舞は母さんじゃない。俺こそ、ちょっと変だ。あわてて口を開いた。

「変ってことはないよ。すくなくても俺たちには。それと、ここの市のほかの地域に住んでる連中にとっても。ただ」

 いっておくべきなのか、俺はしばし考えた。

 大人たちがいっていた、淳ならうまくやる、ということの意味の本質がどこらへんにあるのかも考えた。

 14歳の、勘のいい、鋭く切れる舞。

 風がきた。

 ユーカラじゃない。川の向こうからの風。変じゃない世界の風。

「ただ、普通のとこなら、気のせいかも、って済ませることに注目しがちなとこはあるかもしれない。ごくごく当たり前のことなのに、人のいっぱいいるところじゃ、そうじゃなくなることってけっこう多いからさ」

 絶対にわかってもらえないだろうと覚悟して言ったのに、舞はすぐにうなづいた。

「うん。よくわかる」

 俺は、舞の五つの黒子のある首筋をじっとみつめて、思わず、メコンノマコイとつぶやいた。

 こいつが好きだ。