テレビがついた。

親父が珍しくリモコンを持っている。

ぱちんぱちんと変わる画面を、二人でぼんやりと見つめる。

あたりまえだけれど、母さんがいなくなって、辛かったのは俺だけじゃない。

叱咤激励するじいちゃんやまわりの人に、あわせるように比較的短期間で元気になったように見えた親父だったけれど、そんなに簡単に癒せるような傷なんかじゃない。たぶん。

俺の年で、母さんのためにあのメコンのマコイを彫ったんだから。

「あのさ」

俺の声は妙に遠慮うがちに響く。

親父はチャンネルを変えながら、ああ? と振り返る。

やっぱり綺麗な男だ。

俺の年はすごかったんだろう。もてまくってただろう。

でも、あの、‘ここらへん’のあたりでも、抜きん出てた地味顔の母さんを選んだんだ。

よっぽど好きだったんだろうな。

すごく深いところで。

「俺、メコンのマコイ彫りたいんだよね。教えてもらえるかな」

親父の整った顔がいたずらっ子のようにきゅっとゆがむ。

「舞ちゃんか?」

俺はなにもいわない。

「ま、時間のあるときならかまわんぞ。まずは木、探さんとな」

「うん」