「イワクラ、いつ?」

親父さんが話に一息つけて、じゃ、ささっと作っちゃうから食べていってね、と台所にはいっていくなり、舞はすっと横にきてささやく。

「来週の土曜。夕方」

「どこ?」

「たぶん、山の端。チャシのあった反対側になると思う」

 ふうん。

舞はあっけなく離れて、親父さんの手伝いよろしく台所にはいっていく。

俺は、台所から出て、玄関にいき、そこから二階につながっていく階段をながめたくて、しょうがなくなる。

くま、確認しとこうか、なんて舞にいって上っていきたくなってしまう。

ーメコンノマイ。とっておきのを彫らんとなー

正婆が皺々の口でいうのを思い出す。

そんじょそこらに女子がもっていない細工を凝らしたメコンのマイ。

小刀のことだ。

熊のことは、朝、舞にはなしたけれど、メコンのマイのことはいっていない。

きっといわない。

できあがって渡すまでは。

気に入った木をみつけて、それを切り出し、文様をきめて彫り始める。

いったいどれくらいの時間がかかるのか、見当もつかない。

親父に聞けばわかるだろうか。

すっごい笑われてからかわれるだろうけれど。