親父さんは、ひらすら驚愕しているだけだ。

「えっと、ちょっと忘れ物っていうか、舞さんに言い忘れたって感じのことがあって」

しどろもどろになっていると、意外にも湯本さんが助けてくれた。

「あれでしょう? イワテとかイワサテとかいうのでしょう」

微妙に違うけれど、なんでこいつイワクラのことを知っているんだ?

俺はとっさに舞をみる。

頭を横にふる舞。

親父さんをみる。

まだ驚愕中だ。

「この間はあれがあったんでしょう? オクラホマとかいう」

「ええ。フォークダンス集会です。グランドで輪になってみんなで、オクラホマミキサーにあわせて踊るんです。よくご存知ですね」

湯本さんは、変な顔になった。

もちろん、表情の乏しい埴輪だから、舞や舞の親父さんにはわからなかったろう。

でも、俺にはわかった。

目じりをきっとあげて、挑むような顔になった。

「知っているっていうか、以前、ここに住んでらした方の遠縁にあたるものですから、色々と話をきいているだけなの」

俺は身構えた。

淳くんのお母さんの遠縁なのよ、と続くと思ったからだ。

でも、湯本さんはなにもいわなかった。

ただ、お邪魔しました、といって白川家を、べつに俺に執拗に話しを聞くそぶりもなくさっさと出て行った。