必死で自転車をこいで家に帰ると、親父は治療中だった。

緊急用のインターフォンを押すと、しばらくして、なんだ、と半分怒ったような声がかえってくる。

「きたよ、あの女、学校にまで。やばいよ、感じ」

単語を並べただけの俺に、親父は悠然といった。

「埴輪だな」

「うん」

「あと五分でいく。らうらう。煎じとけ」

「うん」

正婆が昨日くれた小さな白い花の束が、台所の窓辺につるしてあるのを目で確認してから、俺はうなずいた。

霊とか、魂とかいって取材にくる連中なら問題なんてない。

正婆のとこに連れていけば、だいたいは小さく失望して簡単に帰ってくれるから。

やっかいなのは、民族の歴史とか、遺跡とか、織物とか、植物、なんかの取材でおとづれる連中だった。

やつらはどんどん入り込んでくる。

そして、少なくない確率で見つけてしまう。

‘ここらへん’の意味を。

ひどかったのは母さんがいなくなる前の年にやってきたやつだった。

民族の踊り、とかを取材しにきた。

そうだ、母さんと母さんの親友が案内した。