舞が小さく息をのんだ。

「市の方が出してくださった車がトラックとぶつかってしまって。怪我はたいしたことなかったんですけど、予定がすっかり狂ってしまって。本当は昨日のうちに淳くんにもお会いするつもりだったんですけどね」

グランドのほうから誰かが走ってくるのがみえる。

野球帽だ。

佐藤だ、たぶん。

「つまりね。市のほうでも協力してくださるくらい大切な取材なんです。なんとかお父様にお願いしてみてくれませんか? お父様のなさっている北方の植物をつかったマッサージの。痛い」

「すいませえん」

佐藤がダッシュで飛びこんできた。

その前に野球のボールが、湯本さんの肩めがけて飛んできていたけど。

「すいません。ちょっと打ちどろこが悪くて。怪我ないっすか?」

すこし頭の弱い、さわやかいっぱいの野球少年を佐藤はうまく演じている。

「大丈夫、大丈夫。そんな、ほろってくれなくても」

湯本さんがばたばたやっているうちに、俺は舞の手をとってかけだした。

「ちょっと急いでるんですみません」

「あ、ちょっと。あ、待って」

どうせ後で家にくるんだろうな、と思いつつも、とりあえずここは時間をすこしでもか正で作戦会議だ、とたぶん誰もが思っていた。

グランドの連中も下校途中の連中も、学校中の連中が。

それが、‘ここらへん’が、ここらへんでがある、由来だからだ。