「あんまり喋りたくないことを無理やり聞くのは、うちではタブーなの。母親のことがあってから」

舞は、実験用のビーカーに、俺がこっそり持ってきてるインスタントコーヒーを入れる。それにまず水を入れてから実験用のバーナーで熱する。

「お母さんってさ」

まだ生きてるの? と聞こうとして、やっぱりやめた。

そういうこと、あんまり関係ないような気がしたからだ。

コーヒーのいい匂いが狭い室内にひろがっていく。

「話なくないことなら聞かなくていいじゃないか? とにかくイワクラやるから、くまと、ほかにも人からもらって捨てづらいものとかあったら持ってきて。おじさんにもきいてみてさ」

「うん。ありがとう」

やばい。また、キスしたくなってきた。

舞がすっと差し出したビーカーのコーヒーが、あんまりおいしそうで、ありがとう、と微笑んだ舞のうす桃色の唇の形があんまりきれいで、どっちもほしくなった。

困って、舞の顔をみる。

舞も困ってるみたいだ。

でも、ビーカーを差し出し手がぐぐいっとこちら側によってきた。

こぼさないためには、手首より、ひじを引いたほうがいいかな、とそれとも一気に肩かな?と迷っているとき、ガラっと戸があいた。

「三下、お客さんだぞ。そうなんだよな、生徒会室って理科準備室なんだよなあ、俺、いっつも忘れてさ。ははは」

最低禿げ。安田だった。