「こなかった」

安田のザビエル禿が、学校中をあたふたと探し回っている姿が目に浮かぶ。

あいつ、何度いっても、生徒会室が、いったん理科室にはいって、その右前にある実験準備室だってことを覚えてくれないんだよな。

いったい誰が俺に会いにきたんだろう?

考えているうちに、国語の薬師が入ってきて午後の授業がはじまった。

薬師は別に俺に客がきたとはいわなかった。

急ぎというわけじゃないんだな。

俺は、一人納得して、教科書を開いた。

また、窓から、ゆるいユーカラの風がはいってきた。


「でも、なんで親父さんは詳しくしゃべんないのかな?」

放課後、俺と舞は生徒会室にいた。

つまり理科準備室だ。

イワクラのプリントの原版をあげてしまわなくてはならなかったので、舞に手伝ってもらうことにしたんだ。

副会長も、書記も、再来週に迫った試験の勉強で忙しい。

「すっごくしつこく聞いたら教えてくれるかもしれないけど、そういうのもちょっとね」

舞は、今朝一番に、昨日の夜遅く、親父さんが帰ってきたのだけれど、事故についてなにも教えてくれないのだと、報告してくれた。

俺は、くまのイワクラの話をしたけれど、正婆のとこにいった話はしなかった。

くまのことを話たとき、二人ともかなり赤くなった。

周りから、熱あるんじゃない? と気づかれたほどに。