「気合いれんとな」

正婆は冷や飯にビーフシチュウをどばっとかけると、箸で二、三口、皺だらけの口にかっこんで、こりゃあ、うまい、とうなずいた。

「夜は淳ぼうがこれさもってくるのわかってたからな、山下んとこのかみさんが、ほっけと南瓜もってきてくれのはやめといた。あたりじゃった」

あれよ、あれよという間に皿たっぷりあったビーフシチュウライスをたいらげる。

俺は、正婆の後ろの壁にかけてある、大きな織物を眺めている。

イヨマンテの図柄だ。

たぶん、草で染めている。

神の宿った、生後一年あまりの小熊を、神の国に送る儀式。

図柄は、民族の正装をした男が二人、立派なイナウをつけた槍を熊の背中に振り下ろす瞬間をとらえたものだ。

大きく振り上げらえら二本の槍。

最後のあがきで暴れる小熊。

背景で燃えるように輝く巨大な太陽。

「あれは、邪、の兆しじゃ」

正婆の声に、俺は視線をもどす。

空になったタッパーを湯で簡単に洗いながら、正婆はつづける。

「トラックの運転手は、邪、に刺されとった」

「どこからの、邪?」

正婆は俺の顔をじっと見ると、綺麗になったタッパーを、靖男によろしくな、と差し出した。

タッパーの隅っこに小さな花がある。

らうらう。雪笹だ。