正婆の家は、山の端の反対側だ。

内の川の背中の部分にあたるそこらへんに、人家はほとんどない。

‘ここらへん’を後ろから守るように、墓地が連なっている、その端っこにある。

だから、陽が落ちてからいくのはものすごく嫌なところだ。

それでなくても、‘ここらへん’は夜が早い。

外灯だって表の通り以外はすぐに消してしまう。

ほかの町からは、暗闇の穴、っていわれているくらい、夜は暗い。

自転車を使っても行きはのぼりばかりになるのですこし考えたけれど、帰りの下りに期待して、懐中電灯片手に、ずるずる押していくことにした。

「今日はよく会う日だな」

延々とのぼり、昨日のオプニカのチャシの横も過ぎてちょっといったところで、すこしだけ下ったとこにある、赤いと屋根のこじんまりとした平屋の、草木の文様彫りの見事なドアを叩くと、待ちかねた顔で正婆がでてきた。

トゥークの正婆だ。

俺がくることなんて一週間前くらいからわかってたに違いない。

「遅くに失礼します」

それでも俺はとりあえず頭をさげる。

「ずっぽり、色さ埋まった顔してからに、淳ぼうも来年が大人さなんるね。とりあげたときはこんなちんまい赤子だったからさに」

「なにいっているかわかんないよ。どこの言葉、それ?」

俺は言い当てられた感じがして、罰が悪い。

さっさとシチューの入ったタッパだけ置いて帰ろうとしたら、ノヤの茶いれてあるから、よってけ、といわれた。

ノヤの茶といわれて断れる人間は、‘ここらへん’にはいない。

おまけに、昨日オプニカで今日外でてたら、えらく疲れたっしょ、とたたみかけられ、素直にあがった。