「これは、美味い!」

親父が叫んでいる。

口の中はがつがつとつめこんだビーフシチュウでいっぱいなのに、感激のあまり叫ぶことをやめられないんだ。

「これ、どうやって作るんだ。まったく、東京の人間っていうのはたいしたもんだなあ」

俺は、はあ、とか、ああ、とかいいながら、舞のとこからもらってきたシチューにがっつく親父眺めている。

頭がなんだかずううんと重い。唇は妙に熱いし。

「で、なんだ。あの事故を起こしたトラックの運転手っていうのは内地の人間なんだってな」

息子と同じ三杯目までをしっかり平らげて、親父はとても満足そうだ。話す言葉尻もいつもより軽い。

「なんで内地のトラックが外の橋渡ってこれるのさ。ひっかっかるっしょ、普通」

俺はなんとか、ぼけたままの頭でいう。

だって普通なら、橋の手前で止まってしまうはずだ。

原因不明のエンストかなにかで。

「ま、入ってこれたんだろうな、それが問題ださ。明日にでもまた集まることになるだろうな。うちかほかんとこでな」

親父は舞の貸してくれた特大タッパーの中に、まだいくらかシチューが残っているのを、目でさした。

「正婆にもってってやれや。うまいからな、喜ぶぞ」

「で、聞いてくればいいわけだ。なんで内地のトラックが入れたか」

俺が仕方なしに、よっこらしょっとたちあがると、親父は、得意満面でうなずいた。

「じいちゃんのいうとおりだ。淳ぼうはまったく鋭い。色恋ごときじゃ、勘は鈍らんさ」

いやな親父だ。

俺は反論せず、おとなしく家を出た。