舞は俺と熊を見比べている。

真っ黒で大きな、力強い瞳。

俺は集中できない自分に気がついている。

でもやってみないわけにはいかない。

もうオプニカにも連れていってるんだし。

俺の両手はもうほとんど熊の額にくっついている。

集中、集中、集中。

目をつむって、口の中で唱える。

イレス・カムイ、ワッカウン・カムイ、シッコロ・カムイ。

しばらく待つ。

舞の規則正しい呼吸だけが聞こえる。

でも、それだけだ。

熊からは、とくに何も感じられない。

俺はそっと両手をおろした。

舞の肩に。

「夢に毎晩出るなんて、嘘だろ」

そういいながら、キスした。

キスするのは真剣に初めてだったけれど、迷いも緊張もなにもなかった。

ごくごく自然。

こうすることがいまこの瞬間には、もっとも自然だと、世界中の人たちが声を合わせて賛成してくれると思えるほどに、当たり前だった。

「ごめん。嘘ついて」

ぐっと押し付けて、十秒ほどそのままでいて、すっと離した薄紅色の唇は、ちょっと恥かしそうに右に曲がりながらも、ゆっくりとそう動いた。