舞の部屋まで入ることになったのは、舞がみせたいものがあると言ったからだ。

俺がいってみたいといったわけでは、断じてない。

舞の親父さんの作ったシチューは最高だった。

口に入れるだけで、ほろほろと溶けてなくなる牛肉の入ったシチューを食べたのは、生まれてはじめてだった。

俺は感激して三杯も食べ、舞は喜んで、特大のタッパーにたっぷりお土産にといれてくれた。

親父の喜こぶ顔を想像して、俺は嬉しかった。

外食系に関しては、真剣に、‘ここらへん’のもつ、問題は大きい。

「これ、ママから最後にもらったぬいぐるみなんだけど」

ぼんやりとシチューのことを考えていたら、舞が、ベッドの隅に置いてあった大きな熊のぬいぐるみを抱えてきた。

せっかく部屋に入れてもらっているのに、俺は食い気のほうが勝る男だったんだな、とちょっと落ち込む。

「ずっと連れて歩いて、一緒にも寝てるんだけど、ここに移ってきてからちょっと変なんだよね」

「どんなふうに?」

「歩くの」

「歩くんだ?」

「嘘」

「え?」

「泣くの」

「泣くんだ?」

「それも嘘」

「ふざけてるんだ?」