舞は絶句した。

それから、ぷっと吹き出した。

なんだか笑われてるのが心地よくて、病院へ向かうタクシーの中の舞の顔を思い出すと、ほんとうに無償に嬉しくて、俺は聞かれてもいないのに説明をはじめる。

「でも適当料理だからさ。冷蔵庫にある野菜をてきとーに炒めたり、煮たり、で、魚とか肉とか焼くくらいでさ。味噌汁なんてなんにもないときは麩と若布だしさ」

舞はなにに受けているのか、笑いがとまらないらしく、ひっひっと短く引きつりならがらも笑い続けていた。

今更、料理できる男が嫌いなんていわないよな、親父さんが料理するならそれはないか、と考えまくりながら、俺は、舞の発作的な笑いが収まるのをじっと待っていた。

「ビーフシチュウ」

ようやく落ち着くと、舞はいった。

「え?」

「ビーフシチュウ。冷凍庫にあるの。パパ、きっと遅いから、よかったら夕食していって。あ、おじさんに悪いかな?」

作れっていわれたらどうしよう、とびびっていたら、あっさり誘われた。

親父? そんなもんどうでもいい。

「あ、いや、大丈夫だと思うけど・・・いいのかな?」

「え? あ、そうだ。じゃあ、おじさんにはタッパに入れてもっていってあげればいいよ。パパのビーフシチュウってかなりいけるから」

「そうか、そうだね。そうだよね」

返事がおろおろ調になったのは、もちろん期待していたからなんだけど。

「そうだよ」

と微笑んだ舞はさっそく夕食の準備を始めた。

つまり電子レンジで、チン! の準備を。